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グローバル・リーダーシップ・プログラム

201806/06(Wed)
グローバル・リーダーシップ・プログラム インタビュー記事

EVOWARE このプラスチックはどこへ行くの?

「ビニール袋使わない?脱いだ靴を入れられるよ」

ここはインドネシアのモスクのひとつであるイスティクラル。ちょうど中へ入ろうと、モスクへの道を歩き始めたところだった。何人ものインドネシア人が寄ってきた。インドネシア語だったので正確には理解できなかったが、後ほどインドネシア人の知人に聞くと、どうもそのようだった。彼らの手には何枚もの黒いビニール袋。モスクの中に入るには靴を脱ぐ必要があるので、その靴を入れるビニール袋を売っているらしい。私たちが明らかに観光客とわかるからなのか、彼らは私たちがモスクの中に入るまでずっとついてきた。結局ビニール袋は最後まで買わなかった。

その後モスクを出ると、黒いビニール袋を持った人々はほとんどいなかった。おそらくムスリムのお祈りの時間を狙って売りに来ているのだろう。ふと左を向くと、道の上にゴミが散乱しているのが目に入った。しかもそのほとんどが、彼らが渡していた黒いビニール袋である。私は驚いてインドネシア人の知人に言った。「すごい量のゴミだね」すると彼女は言った。「そんなこと多くのインドネシア人は気にしないんだよ」

 

実際インドネシアのゴミ問題は凄まじい。

インドネシアは26.2億トンもの海洋投棄を行っており、これは中国に次いで世界第二位である。特に首都ジャカルタでは毎日約6,270トンのゴミが排出されており、これらはなんと19%しか分別されない。これらのゴミの多くが海洋投棄されるのは、インドネシア内にゴミ処理施設がほとんどないからである。ゴミが焼却できないため、捨てられたゴミは海に捨てるか、焼却せずに積み上げるしかないのだ。プラスチック製品はその中でも最も多くの割合を占めている。インドネシア人は1人あたり年間700袋ものビニール袋を使用していると言われているほどだ。プラスチック製品の投棄は、インドネシアだけでなく世界的な問題となっており、海洋投棄の約90%をビニール袋が占めている。ビニール袋は自然分解するには100年以上の年月を要し、また燃やすと環境に有害なガスを排出してしまう。実際投棄されたプラスチック製品を誤飲した生物は数知れない。死んだ鳥の胃を開くと、あまりに多くのプラスチックが出てきたケースがあるように。しかしインドネシアでは現在も多くのプラスチックが使用されており、人々はその問題に気を向けない。それが当たり前なのだから。

デヴィットさんは、こういったインドネシアの現状に疑問を持ったうちの一人だ。彼はインドネシア人であるが、4年間カナダで学んだ経験がある。帰国後彼は驚いた。こんなにもカナダとインドネシアが異なるとは。こんなにもインドネシアにゴミが多いとは。そう、特にプラスチック製品のゴミが。どうにかしなければ。そう思い立ったが、彼らは環境問題に深く興味を示してくれない。彼らにとって科学的な説明はあまりに退屈だったのだ。そこで、彼は会社を設立することを決心した。それが現在彼がオーナーを務める社会的企業“Evoware”である。

 

Evowareは、

インドネシアの社会的企業である。発展や進化などの意味を持つ“evolution”と、それらの発展を製品によって行うという意味での“ware”を掛け合わせた名だ。Evowareは環境問題、特にゴミ問題の解決に特化している会社で、環境に優しい商品を作ることが主な活動である。彼らの商品はとてもユニークなものばかりだ。例えば、彼らが初めに作った商品。一見ただのカラフルなコップだが、実は食べられるコップなのである。持つと少々プルプルと動き、触感は弾力が強め、味は無味だが、良い香りがする。これは、人々を楽しませることを考慮して作られた商品である。従来の退屈な方法では人々は振り向いてくれない。そこで、人々が楽しみながら環境問題について考えられるようにと、この商品が作られたのだ。その他にも、ハンバーガーやインスタントラーメンの中にある粉末の包装紙を生産している。これらもコップ同様食べることができる。インスタントラーメンの粉末の方は、お湯をかけると溶けて同化する。彼らの製品はどれも、これまで大量に捨ててきた日常のプラスチックの代用であり、その量を少しでも減らすための商品なのである。

食べられる製品なんて、一体何から作られているのだ。そう思った人は少なくないだろう。Evowareの商品は全て海藻からできている。だからこそ私たちは彼らの製品を食べることができるし、お湯で溶かすこともできる。さらに言うと、海や土に捨てても分解されるのだ。ここで重要となってくるのが海藻農家の存在である。インドネシアの海藻農家の低賃金は、社会問題のひとつだ。1つの農家に対し1日2ドルしか得ることができない。そこでEvowareは彼らとフェアトレードをすることにした。フェアトレードとは、適正な価格で商品を売買することである。Evowareはその海藻で上記の商品を作り、人々に売っているのだ。

 

ビジネスは利益のため

多くの企業の考えはそうだろう。しかし、Evowareはそういった一般企業とは異なる。彼らは社会的企業だ。社会的企業とは、利益を得ることよりも社会の問題を解決することを一番の目的とする企業のことである。つまり、彼らが本当にしたいことは単に利益を得ることでなく、社会に存在する問題の解決なのだ。彼らはフェアトレードで原材料を仕入れることにより、海藻農家はこれまでよりも収益を得られるようにしている。その海藻で作った商品は単に環境に優しいだけでなく、人々に売ることで人々のゴミ問題への意識を変えている。つまり、Evowareのビジネスは環境問題と社会問題の両方を解決するためのものなのだ。また、彼らは商品を売るだけでなく、様々なイベントも行っている。例えば、イベントの初めにヨガなどを行って頭や体を柔軟にしてから、Evowareのトークショーを聞いて環境問題について知ってもらい、その後Evowareの商品を買ってもらうというイベントがあるそうだ。堅苦しいやり方では人々の心を動かすことができない。いかに発想力を豊かにしてビジネスを行うか、これが社会的企業に求められる重要性のひとつだろう。

 

それって慈善団体と一緒じゃない?

なるほど、確かにNGOやNPOも同じような活動をしているかもしれない。フェアトレードと聞いて思いつくのはNGOだろうし、社会問題の解決と聞いて頭によぎるのもそういった団体だ。しかし、彼らは自分たちの利益をそこまで追求しない。もちろん従業員の給料を払う必要があるため、収入は必要だ。それでも、彼らの根本にあるのはあくまで問題の解決であり、利益を得るやり方よりも支援対象のことを一番に考慮した方法で事業を行う。得られた利益で慈善事業を行うほどに。それが悪いというわけでは決してない。ただ私が言いたいのは、それはビジネスではないということだ。では、一般企業はどうだろう。一般企業の第一の目的は利益を得ることだ。例えば一般企業がEvowareのようなビジネスを行おうとした場合、おそらく彼らはいかに安く原材料を仕入れられるかを考えるだろう。その方が多くの利益を得ることができるからだ。それに対して社会的企業は、社会問題の解決を一番の目的にしながら、尚且つ利益を得ることも重視したビジネスを行うのだ。収益は自社のビジネスや自身のために、一方で社会の問題をも重視する。このように書くと社会的企業が最も良いように思われるかもしれないが、決してそれぞれの団体のやり方に優劣があるわけではない。

 

それは果たして持続可能なのか。

もちろん難しさはある。実際社会的企業は一般企業よりも負担が大きい。一般企業が最小限のコストでビジネスを行っているのに対し、彼らはそうでないからだ。それは必然的に商品の高値に繋がる。値段の高い商品はやはり売れにくい。実際Evowareの商品は従来のプラスチックよりも20倍も高いという。そのうえ新しい市場を開拓することも必要だ。また、Evowareのコアメンバーたちは給料を得ていないそうだ。給料を収益から引いてしまうと、Evowareの成長はより遅くなってしまう。Evowareはまだ設立1年半の会社だ。今が伸び時なのだ。そのため、彼らは自ら望んで給料をもらっていないのだという。それもひとつの企業の在り方ではある。しかし、それは自分自身を少なからず犠牲にしているとも言えるのではないか。さらに、彼らはむやみやたらに大企業と提携しない。これまで多くのオファーはあったが、断った社数は数知れない。なぜなら、大企業はより利益重視になる可能性があるからだ。

このように社会的企業であるEvowareには、社会的企業ならではのしがらみがある。一方で、これらの問題に対応する動きもみられる。Evowareの今の商品を改良し、他社のしょうひんよりも20%高いだけの値段にしようと計画したり、今以上に利益を得た場合、給料を得ることも十分視野に入れている。また、頑なに大企業と提携しないのではなく、十分に吟味したうえで提携したり、自らオファーしに行くこともある。

 

私たちには何ができる?

ゴミ問題の解決のために、低賃金労働の人々のために。私たちは環境に有害なものを一切使わずに生活できるだろうか?より安いものを一切求めずに買い物を続けられるだろうか?Evowareのオーナーであるデヴィットさんは、自分自身もそれは難しいという。現在の世界はあまりにもプラスチック製品で溢れかえっている。それを使わないなど現代人には不可能であるほどに、人々はプラスチックに依存している。しかし、プラスチックは必ずしも悪ではない。現在多彩な用途で使われているように、それはあまりにも便利である。食べ物の包装など、使ってすぐに捨てられるプラスチックは確かに悪影響を及ぼすかもしれないが、中には何度も使えるものもある。プラスチックでできたボトルやコップは何度も使用可能だ。デヴィットさんは、これらは良い使い方だと考えている。また、デヴィットさんはレストランやスーパーでストローやビニール袋を使わないなどの工夫をしている。100%その身をささげることはない。最善を尽くせばいいのだ。

これは単にインドネシアの問題だと思われるかもしれない。しかし、上記に示したように、プラスチックは今や世界規模の問題である。地球儀を見てわかるように、世界は海でつながっている。プラスチックはその海の流れを通して各地へ移動し、広範囲で影響を及ぼしている。中国の大気汚染が日本にも影響を及ぼすように、一部のみで問題が完結しないのが環境問題なのだ。日本はインドネシアほど海洋投棄を行っていない。分別も行っている。しかしそれで満足してはいけない。インドネシアの問題は、1つの地球に住む私たち人間の共通の問題である。彼らの問題をいかに協力して考えるか、さらに日本の環境を今後どうやって向上させるかということも考える必要性がある。

 

「自分が使ったプラスチックがどこへ行くか、考えたことはある?」

インドネシア人の知人が私にそう聞いた。冒頭部で発言したインドネシア人と同じ人物だ。彼女はインドネシアのプラスチック問題を解決しようと、独自の方法で様々な活動を行っている。普段特に何も思わずに使用しているプラスチック。一体1日にどれだけの量を使用しているのだろう。分別しているから。きっとリサイクルもされているから。だから大丈夫。なんとなくそう思ってはいないだろうか。本当に大丈夫なのか?本当にリサイクルに使われているのだろうか?間違って分別されたプラスチックごみは?道端に落ちているビニール袋は?それらは果たしてどこへ行っているというのだろう。どのような影響を及ぼしているのだろう。もしかするとそれらは、鳥や魚の体内から見つかるのかもしれない。そういった現状に、彼らは立ち向かっている。新しいことを始めるには、それなりの困難がある。しかし、そこには多くの潜在的は可能性が存在する。ともすると、彼らはこれまで誰しもが思いつかなかったようなやり方で今後世界を変えていくのかもしれない。

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