ジャーナル

Gakuvoボランティア奮闘記 ①~ 入り混じる期待と不安。624日ぶりの現地ボランティアを前に思うこと~

学生ボランティアの育成を目的に、2010年4月に設立された日本財団学生ボランティアセンターGakuvoは、10年以上にわたり、のべ15,297人の学生を全国各地に派遣してきました。

Gakuvoは、学生ボランティア派遣、災害支援、プラチナ未来人財育成塾チューターなど多角的な活動を展開しており、そのなかの一つである学生ボランティア派遣チーム「ながぐつ」は、東日本大震災をきっかけに立ち上がったプロジェクトです。これまで、東北地方、とくに震災だけでなく2019年に発生した台風19号「令和元年東日本台風」によって甚大な被害を受けた福島県いわき市を中心に活動してきました。

そんなチーム「ながぐつ」プロジェクトを襲ったのが新型コロナウイルス感染症の流行拡大です。2020年3月以降、福島県への訪問は断念せざるを得ない状況になりました。活動の根幹を揺るがす事態に、一時はなす術のない状態に陥ります。

しかし、そのような状況でもいわき市の方々との縁を途絶えさせまいと、オンライン上で現地の農家さんやお寺との交流を通じて、できる限りの活動を続けてきました。

そして、去る2021年10月29日。全国で緊急事態宣言などが解除されたタイミングで、徹底した感染対策のもと、実に624日ぶりとなるいわき市でのボランティア活動再開が実現しました。各地から集まった大学生18名がいわき市を訪れ、2泊3日で農家やお寺での貴重な経験を積むことができたのです。

今日に至るまでの約1年9ヶ月間、Gakuvo、受け入れ先であるいわき市の方々、学生はどのように過ごしてきたのでしょうか。そして、1年9ヶ月ぶりに現地での活動が再開できたことをどのように受け止めているのでしょうか。それぞれの立場からボランティア再開までの思いを聞きました。

624日ぶりの現地活動

「東日本大震災から10年となる今年、現地でのボランティアを再開したい気持ちは強くありました。ただ、私たちがやりたいと考えていても最優先は地元の方の感情なので、いわき市の方々に受け入れてもらえるかが重要でしたね。4月頃から様子をうかがってきて、新型コロナウイルスの感染者が減少しはじめ、緊急事態宣言などがすべて解除された10月に『今しかない』と。事前にいわき市を何度も訪問して現地の状況も確認したうえで、慎重に判断して今日にいたりました。本当に実現できてよかったです」

と現地での活動再開までに様々な葛藤があったと話してくれたのは、日本財団学生ボランティアセンターGakuvoの常務理事を務める沢渡一登さん。

2020年3月、世界中で新型コロナウイルス感染症への危機感が募り、人と会って話すことが悪となるかもしれない、迷惑をかけてしまうかもしれない――それは、対面でのボランティア活動が前提だったプロジェクトの目的とは真逆の行為で、主催団体であるGakuvoは活動の見直しを余儀なくされました。

それまで度々いわき市を訪れていたGakuvoの髙野葉朗さんは、2020年3月当時をこう振り返ります。

「一番の不安は現地の方々との関係性でした。学生ボランティアを派遣できないことで、農家の収穫量が減っていることも耳にして……。ただ、最初のうちは何ができるのかわからず無力感を覚えました。とにかく、足を運べなくても何かできることはないかと毎日考え続けましたね」

いわき市の方々との新たな関わり方を模索するなかで、オンライン版チーム「ながぐつ」プロジェクトが始動したのは2020年10月のことです。オンライン上で、参加学生たちに農家の方が販売する商品を実際に発信してもらったり、住職の方から東日本大震災や令和元年東日本台風に関するお話を聞いたりする機会を設けました。離れた場所からでもいわき市のこれまでや現状を学生に知ってもらい、いわき市の方々の力になりたいとの思いから活動は継続されていきました。

左から日本財団学生ボランティアセンターGakuvoの髙野葉朗さん、沢渡一登さん

東日本大震災と重なった1年9ヶ月

NPOいわきオリーブプロジェクトは、今回のボランティア受け入れ先の一つ。いわき市の新しい特産品づくりを目指して2009年からオリーブ栽培をスタートし、2021年現在、いわき市内だけで65ヶ所、6500本が植栽されています。

もともと国内でのオリーブ栽培は茨城県が北限とされていましたが、品種選定や栽培技術の研究など、長年の努力の末にいわき市でのオリーブ栽培に成功しました。今では東京・中野区をはじめ、全国各地に活動の輪が広がっています。

そして、その裏には2013年から畑づくりやオリーブの収穫などを手伝うGakuvoの存在もありました。

プロジェクトの理事長兼いわきオリーブ株式会社代表の松﨑康弘さんは、この1年9ヶ月を「東日本大震災のときと同じだ」と感じたと言います。

「Gakuvoさんのボランティアを含め、毎月たくさんの人がこの畑に来ていましたし、私も東京へ講演や販売でうかがうなど往来がありましたが、コロナ禍でパタッとなくなってしまって、やっぱり孤立感はありましたね。震災のときとまったく同じことが起きたと思いました」

NPOいわきオリーブプロジェクト理事長兼いわきオリーブ株式会社代表の松﨑康弘さん

当たり前にあった日常を突然奪い、人と人との関係を分断した新型コロナウイルス感染症ですが、ボランティアが来られなくなったことで、その影響はオリーブの栽培にも及びました。比較的手のかからない作物とも言われるオリーブ。とはいえ、いわきオリーブプロジェクトの広大な畑を、プロジェクトのメンバーのみで守るのは並々ならぬ労力が必要です。直近の1ヶ月間も毎日「雑草が伸び切っている畑の草むしりをしていた」と話す松﨑さん。体にも心にも、決して小さくはない影響がうかがえました。

そして今回、現地でのボランティアが再開されたことに対し、「率直に嬉しいです。コロナ禍前は、時間が流れていくなかであまり過去を振り返ることはしなかったのですが……今の状況になって、『こういうことが日常だったんだな』としみじみ思い出しますね」と話しました。

学生の反応が見えない…始めは苦戦したオンラインでの講話

いわき市にある長源寺の副住職である栗山周桂さんは、地元の方からの紹介を受けたことをきっかけに、2013年よりGakuvoに派遣された学生への講話を行うほか、宿泊場所として長源寺を提供してきました。

講話では、東日本大震災や令和元年東日本台風での自身の体験や、災害ボランティア支援プロジェクト会議(※)を通じて訪問した避難所の様子など生の声を伝えています。
新型コロナウイルス感染症拡大後の2020年2月以降は、オンライン版チーム「ながぐつ」プロジェクトで学生への講話を続けてきました。当初は栗山さん、学生双方がオンライン会議に不慣れな状況。そのなかで「伝えること」への難しさを感じたと言います。

「試行錯誤して、最近ではWebでも学生の意向を感じられるようになってきましたが、最初のうちは反応が見えなくて戸惑いました。Gakuvoの髙野さんに『どうすればいい?』と相談していましたね。学生に事前に配布している資料はあるものの、手探りの状態からのスタートだったので反省点もありました」

長源寺副住職の栗山周桂さん

今回のボランティア参加者のなかには、オンライン版の講話に参加した学生や2019年に実際に長源寺を訪れた経験のある学生もいます。これまで栗山さんのお話を聞いたことがない学生、初めての対面となる学生、久しぶりの再会となる学生。それぞれの立場から、何を感じ取るのでしょうか。

(※)災害企業・社会福祉協議会・NPO・共同募金会が協働するネットワーク組織。災害ボランティア活動の環境整備を目指し、人材、資源・物資、資金を有効に活用するため現地支援を行う。

いわき市を目指して、いざ出発

いわき市に向かう大型バス

2021年10月29日18時30分。東京・虎ノ門にある日本財団のビルへ、学生が続々と集まりバスへ乗車していきます。事前のPCR検査の結果は、無事に全員が陰性。今回は関東圏の学生を中心に、関西の大学に通う学生や福島市から参加する学生など、全国各地から18名が揃いました。

車内ではマスク着用のうえ、会話は原則禁止。通常であればコミュニケーションのきっかけとなる自己紹介タイムは、LINEのオープンチャットを用いてテキストでのやり取りをするなど、コロナ禍だからこその万全の対策が取られていました。

バス車内。学生同士は隣り合わないように座る

約4時間をかけて、バスはいわき市内のホテルへ到着。例年は現地の方が提供する宿泊場所へ泊まっていましたが、今回は全員に個室が用意されています。ホテルのロビーに集合し翌日の説明を受けた学生は、これから始まる活動に向けて一様に期待と不安が入り混じる様子を見せていました。

食事も全員では行わず、それぞれに弁当が配布されるため、翌日の朝食を受け取ったら各自の部屋へ。朝からの活動に備え体を休めます。

まとめ

624日ぶりの現地でのボランティア再開。主催団体であるGakuvo、そして受け入れ先のお2人はいたって冷静にお話をしていただきましたが、努めて大きな喜びを表面上に出さないようにしているように思えました。と同時に、安心感を覚えている様子もうかがえました。

参加する学生にとっても、2020年3月以降はボランティア活動はもとより、キャンパスライフやサークル活動、旅行など「そのとき、そこでしか得られない経験」を我慢せざるを得ない状況が続いています。

そのなかでやっと、本当にやっと開催される今回のチーム「ながぐつ」プロジェクトは、単に「久々に現地での活動ができる」以上の大きな価値をもたらすことでしょう。いよいよ明日から、624日ぶりの大きな一歩を踏み出します。

掲載写真について:撮影時のみマスクを外しています。

取材元:Gakuvoジャーナル編集部