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ジャーナル

西尾先生に聞いてみた!オンライン授業の新たな可能性

西尾 雄志先生

近畿大学総合社会学部 社会・マスメディア系専攻准教授

大学でのオンライン授業が始まり一年。つらい、つまらない、分かりにくいなど様々な声が挙がっています。
そんな中でも、行動さえ起こせば学びを深める方法はたくさん存在し、自分の成長に繋がるきっかけになるということに、このインタビューを通じて気づくことができました。
オンライン授業での新たな可能性を見出し、日本の大学での学びに対して熱い思いを抱いている西尾先生の熱い思いを伺いました。

はじめに

古橋:まず初めに、ご担当されている授業と、授業形態を教えてください。

西尾先生:担当しているのは、国際社会学、NPO論・NGO論、地域・コミュニティ開発論、国際開発協力論。前期はオンラインで、後期科目の国際社会学は、対面、オンライン、オンデマンドのうち、学生が希望するものを選ぶというかたちにしました。

古橋:希望者のみ対面ということですが、大学に来た学生は何人くらいでしたか。

西尾先生:履修者が236人いて、対面で大学に来たのは最終的には20人くらい。全員1年生でした。私の見解ですけど、2年生以上はオンデマンドの方が楽。でも1年生は困る、学生が大学でやりたいこと・やることは、授業を聞くだけじゃないですからね。1年生にとっては、せっかく大学生になったのに、友だちが一人もできない、という深刻なリスクを抱えることになってしまった。1年生は、貴重な大学生活の4年間のうち、四分の一がふっとんだようなものです。2年生以上はこれまでの大学生活で得た友人や経験があるから損失をいくらか抑えることができる。でも1年生はまるごとの損失になってしまったんじゃないかと思います。

古橋:私も1年生だったら対面授業に行っちゃいますね。学ぶだけじゃないですし、誰も友達がいない大学生活も嫌ですね。

西尾先生:最初の一年間何もないですよってなったら、1年生は困りますよね。

一年間で見えてきたオンライン授業の活用法

中田:この通り時間の有効活用と内容を効果的に伝えるというのが良かった点として多く、悪かった点として、学生の反応が見えない、負担の増加が挙げられるんですけども、西尾先生ご自身はどうですか。

西尾先生:率直に言うと、オンライン授業になって良かった点は感染症対策だけで、教育面では良いところはなかったと思います。学生にとっても教員にとっても不幸なことでした。その最大の原因は、十分な準備期間がなかったこと。もしそれがあれば、創意工夫をこらしてオンライン授業の可能性を広げていくことができたかと思いますが、あまりに時間がなさすぎた。ただ、一年の経験で見えてきたこともあります。オンラインだとチャット機能がつかえるので、授業中に発言がしやすいので、ケースメソッド(注1)のような授業方法が採用しやすくなります。
注1:1920年代にアメリカのハーバード大学のビジネススクールで開発された教育手法。実際に起きた経営上の事例を教材として、その問題を分析し、討議しながら解決策を導いていくことを通じて、実践的な問題解決・意思決定能力を高めていく。

中田:確かに、授業の中で手をあげて発言するより、チャットでの発言の方がハードルは低いです。

西尾先生:また逆に悪い点ですが、自分のペースでできる分、ドロップアウトの危険性も増してしまいます。MOOC(注2)というオンラインで大学の講義を誰でも聴けるという講義サービスがあるんですが、MOOCの欠点はドロップアウトする人が圧倒的に多くなるということ。それをどう補うかが工夫されているんだけど、このまま大学でのオンライン教育が続けばドロップアウトする人が増えていくだろうと予想されることがオンライン授業の課題だと思います。※
注2:アメリカで始まったオンラン学習サービス。大学レベルの講座を簡単な受講登録のみで学べ、講義動画、テストや課題の採点、修了証発行まで全て無料で提供している。大学卒業の資格は取れないが、試験を受けると修了証明書も発行され、履歴書にも記載できる。

※ただし、このインタビューの後、2020年度の大学生の中退率は、例年より低いことが文部科学省より発表された。今後の動向が注目される。(「新型コロナウイルスの影響を受けた専門学校生への支援状況等に関する調査」)

古橋:他の良くない点として、課題が学生の負担になりやすい、スピード感がつかめないといった回答があるんですけれども、これらを見て何か感じることなどありますか。

 

 

西尾先生:良くなかった部分は、繰り返しになりますが、準備期間が十分に与えられなかったこともありますね。きちんと準備できれば、オンラインの充実した授業コンテンツをしっかりと時間と労力をかけて作って、それをオンデマンドで学生が好きなときに観られるようにする。

古橋:作り込んだコンテンツを用意するということですね。

西尾先生:そうすると、1回コンテンツを作ってしまえば、マスプロ授業(注3)などはできるだけオンライン化して、それで削減できた労力を、ボランティア学習、フィールド学習、体験学習、サービスラーニングなど身体を使って学ぶ内容に振り向けていく。そういった体験学習で得た経験と授業で得た知識をふまえ、ゼミなどで活発な討論をする授業を充実させる。大学教育の改革上、それが一番いい方向じゃないかなと思います。体験することで得られたものと、オンライン授業で得た知識を、活発な討論を通して融合させていくことが、これからの大学教育を考える上でひとつの方向性となると思います。
注3:多人数を対象とし、毎年で開講される授業を指す。ゼミや少人数学生を対象とする授業と比較してこのように呼ばれる。

中田:私も一つだけディスカッション形式の授業があるんですけど面白いですね。時間もあっという間ですし、学生同士で考えることができるので、増えてほしいなと思いますね。

インプットとアウトプット

西尾先生:インプット型の学びだとオンラインの良さが分かりやすいと思うんですけど、アウトプット型の学びにも今のオンライン授業は工夫の余地はあるかと思います。アウトプットの部分をきめ細かくやっていくことがこれからの日本の大学の課題だと思うので、そっちの方向に進んでいくといいと考えています。

中田:具体的にはどのようなものを想定されていますか?

西尾先生:さっきも少し話したケースメソッドの例ではマイケル・サンデルの『ハーバード白熱教室』(注4)が有名で、具体的な事例を提示して、それに対して自分がどのように行動するかというのを大講堂で学生に対して質問するという授業形式です。オンラインでそれと似たような形式で授業を進めると、かなり積極的に頭を使って回答してくれるんですよ。日本の大学の雰囲気を考えると、対面の授業でばんばん自分の意見を言うのは恥ずかしいけれど、オンライン上だと発言しやすい。こういった発言の機会、アウトプットの機会があると、アウトプット重視の学習についてもオンラインの活用法はあるかなと思っています。
注4:ハーバード大学におけるマイケル・サンデルの「政治哲学」講義を収録した番組(日本では2010年放送)。講義では例題や実例を提示しつつ、学生に難題を投げかけ議論を引き出し、自身の理論を展開する。

古橋:あと課題の量についても意見が出ているんですけれども、西尾先生は課題の量に変化はありましたか。

 

 

西尾先生:課題の量は教員だとどれくらい時間かかるか分からないんですよね。後期になって分かったのが、私は課題少ない方だと思っていたんだけど、実際1年生に大学に来させて、課題を出したら、想像以上に時間がかかっていたんですよね。だから、課題が多いとなっていることがよくわかりました。ある程度経験しないと、教員からは分からないんですよね。

古橋:良かったことの一番は時間。オンライン授業であれば15分前に起きても授業に参加できる。あと満員電車に乗らなくて良いので、気持ちの面でも楽になったのはありますね。

西尾先生:「授業の分かりづらさ」「課題の量」「孤独」までは予測できましたが、切り替えの難しさはこのアンケート結果を見て初めて気づきました。授業の時間が決められていれば良いけど、オンデマンドでいつでもみられるとなると、「やるぞ!」と思わなければなかなかスイッチが入りませんよね。

今後のオンライン授業の取り組み

西尾先生:時間を気にせずできる/自分の時間ができたというのはそうだと思います。近畿大学もオンライン授業はコロナ禍の過渡的な対応の形ではなくて、共通教養科目に関しては何年かかけて学生が好きなときに観られるよう、オンデマンド化していく方針で、この春休みから収録がはじまってます。近大では、弁当みたいな名前ですが「近大DX」と銘打った取り組みをはじめています。「近大デラックス」ではなく「近大デジタルトランスフォーメーション」です。

中田:画期的ですね!

西尾先生:そうすれば時間を気にせずに授業を受けられるし、何度も見返すことができます。教員の手間も大幅に削減できて、他の個別的な教育に回すことができるようになり、非常に良いと思います。しかしその反面、学生の生活スタイルが乱れてしまうのではないかという点は、ちょっと気になります。なのでこれからの大学教育は、オンラインと対面のそれぞれの良さを生かして、並行させていくのがいいかもしれません。

古橋:大学3年生の立場から言えば、大学の授業がオンデマンドだと就活やインターンなどがやりやすくなります。時間を気にしなくて良いので、すごくありがたいなとは思いますね。

大学の教員として考えることとは

古橋:つまらない・面倒くさい・モチベーションが上がらない・集中力が続かないというのは学生側の問題でもありますね。

西尾先生:つまらないというのは学生・教員双方にとって不幸なことで、改善していく必要がありますね。オンライン教育も準備期間が必要で、作り込んだら良いと言ったのはまさにそういうことです。カットも編集も考えて、視聴者の理解度を意識しながら作り込まれたオンライン教材を作っておく。そういうあり方だと可能性を感じますし、学生にとっても教員にとっても幸福なことだと思います。

古橋:学費に関してはどのようにお考えでしょうか?

西尾先生:授業料を取らないとなると大学は簡単に潰れてしまいます。大学は、授業料返還以外の方法で学生の満足度の向上を図る必要があります。大学に向けて何か声をあげる際は、学びの質を保証しろと言うことの方が大学としては応えやすいです。その方が大学は動きやすいし、絶対に動かないといけません。今の大学1年生のためは、一年間大学に通えなかった分の元を取れるくらい充実した何かを作っておく準備が必要だと思います。最初は友達を作るための楽しいことなど、この失われた一年を何とかして取り戻すような機会を、残りの三年間で作る必要があります。そこにお金と労力をかけるというのが大学にできることかなと思います。2020年度入学生の「四分の一」を少しでもとりもどすことを、大学教員として考えています。

最後に

西尾先生:現大学1年生とそれ以外の2年生以上ではオンライン授業の受け止め方は違うと思うのですが、2人はどう思いますか。

古橋:1年生は、サークル活動や課外活動ありきの大学生活というイメージで入ってきていると思うので、オンライン授業だけというのは不満しかないのではと思いますね。2〜4年生であれば1年生の時にサークル等の課外活動や対面での授業を経験している分、比較をした時にオンライン授業の魅力も感じやすいのではないかと思います。だから、受け止め方・捉え方は違うと思いますね。

中田:受け止め方・捉え方は絶対に違うと思いますね。1年生の場合は入り口からオンライン授業だったからこそ、高校の授業との比較をし、大学の意味を考えながら授業を受ける学生は多いのではないかなと思います。2〜4年生であれば、卒業が見えてくるので授業への取り組む姿勢は変わると思います。

西尾先生:ありがとうございます。最後一言を考えたのですが、あまり深いものがなくて…。とにかく一日でも早く新型コロナウイルス感染症が収束することを祈ります!そして大学で会いましょう。コロナ勘弁してくれよという感じです。教員もみんなと会いたいんです!(笑)

中田:本日は、ありがとうございました!

※インタビュー内容は、インタビュイー個人の見解、および考えであって、「近大DX」の内容以外は、近畿大学の公式の見解を示すものではありません。

 

取材元:Gakuvoジャーナル編集部